本のみの虫!

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シンプルな情熱

シンプルな情熱」アニー・エルノー ノーベル賞受賞作家。

フランス人女性作家が描く異国の妻子ある男性との不倫私小説です。

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私小説。実際にあった話を小説化するということで、事実が描かれるわけですが、かなりセンセーショナルであると話題になったようですね。確かに内容的にはセンセーショナルです。不倫から始まり、破局で終わるという、あらすじをいうならとっても簡潔。

ただ、その間の揺れ動く心情を肉欲を含め丹念に嘘偽りなくつづったことがこの作品のすごさでしょうか。恋に恋する乙女の心情というより、かなり「大人」です。

 ただ彼が来ることを待ち焦がれる。その間はそれ以外のことがすべて色あせる。連絡がこなくなったらどうしよう。自分にはまだ彼を引き付ける魅力はあるのだろうか。彼がこなくなってしまったら元の色あせた生活に戻る。自分はそれに耐えられるのだろうか。服やアクセサリーを買うのもすべて彼にみせるため。それもベッドに入るまでのごく短い時間のため。いやはや題名通り、とってもシンプルに情熱的です。さすがフランス人です。

私にも若かりし頃にはほんの少しこういう気持ちもあった、あったかもしれない、いやきっとあっただろう・・・と遠い目をしながら50越えのおばさんは読んでいたわけでありますが、なんと終盤で気づく。この話の不倫相手は38歳、そして女性は50歳くらい。なんと私と同年代!! びっくりです。 日々園芸にいそしみ、健康を考え歩くうち、自然の中に身を浸す気持ちよさに目覚め、もはや仙人の境地に達したかもしれない私とは異世界すぎます。なんかうらやましい。

ですが、同年代ということに気づいた途端作品中の色々なことに対して腑に落ちた感じがします。

50歳です。アモーレ文化の大人の女性が好まれるフランスとはいえ、50歳とは正直、閉経を迎える年齢、女性として最終局面に達する年齢です。恋愛を対象にした場合、大人の魅力的な女性とは30代から40代ですよね、一般的に。もちろん何歳になっても色あせない魅力的な女性は大勢います。実際私の周りでも恋愛していたり、再婚した人もいます。が、それ以上に錆びていく女性が多い。

だからわかる。まだ彼にとって私は魅力があるのだろうかと苦悩する心情。もしかしたら最後の恋愛かもしれないと思えばこそ、元の色あせた生活に耐えられるだろうかと危惧する心情。

若かった頃は洋服を選ぶのが楽しかった。もちろん今でもおしゃれはしたいが何を着ても以前のようにしっくりこない、服選びが切なくなってくる頃、見せたい男性がいるからこそ張り合いをもっておしゃれできる感じ。置かれている世界は全く違い、異世界だけれども一挙に共感できるところが不思議です。

そして、最後結局不倫は終わるわけですが、郷里に戻ってしまいしばらく連絡のなかった彼から本当に久しぶりに連絡がきて会うことになる。だが、その時あった彼はもう違う人だった…。その間、彼を望む気持ち、あきらめようとする決心、色々心を動かして悶々悶々としたからこその「感覚」だったのだろうと思うと切ないようなすっきりしたような…。

 

それにしても 大きな息子がいるのに、これを書くという決意、小説家ってすごいです。