暑い夏に合わせて怖い本立て続けに紹介してきましたが、今回は「すごい本」。
久しぶりに圧倒されるような小説を読んだので。
それは、「国宝」吉田修一著 上、下巻2冊です。
圧倒されましたし、痺れましたね。
舞台は歌舞伎界。歌舞伎の家に生まれた訳でもない1人の少年が、歌舞伎に魅せられその道を極め、タイトル通り国宝にまでのしあがっていく物語。
当然、順風満帆な訳もない。そもそも生まれは歌舞伎とは関係のない任侠の家。養母の任侠だけは継がせたくないという意志のもと歌舞伎の世界へ送り込まれます。
歌舞伎に魅せられ、容姿も恵まれており、才能もあり、師匠にも認められ、本家筋の息子を脇目に3代目半二郎の名をつぎ、その道を突き進んでいくわけですが、師匠亡き後、後ろ盾もないためかなり苦労します。
複雑な家庭環境、親しい人との別れ、本来3代目を名乗るはずの俊介からその座を奪ったとバッシングされたり、なかなか役がもらえなかったり…。
それでも救いなのはその俊介と最後まで良いライバル関係であったこと、なんだかんだと理解して支えてくれる人間がそばにいたこと。
それでもだんだん高みに登るにつれ孤独になっていき、芸が研ぎ澄まされればされるほど、緊張感が増して息苦しくなってきて、結構読むのがしんどくなってくる。
でも、どうなるのか続きが気になりページをめくる手は止められない。
歌舞伎という世界の奥深さ、そこに取り憑かれ先を先をと目指す役者の壮絶なまでの生き様。
舞台や役者が美しいからこそ、どんどん凄みが加わり、圧倒される。
文章も太夫の語り口調とでもいうのだろうか、舞台調で、一章ごとに幕がひかれ、また新しく幕が開くような繋ぎ方。凝ってます。
ラストのシーンも、これまた美しくて…。
読み終わった後、しばらく放心。
とても充実した素晴らしい読書体験ができました。
おすすめですよ。